創作ニンジャ小説
ニンジャ大作戦 ロサンゼルス戦国時代
不死川 魔沙王作
警戒厳重な建物に、黒装束の男たちが忍び込む。黒いキモノ、黒い覆面…ニンジャだ!ニンジャたちはかぎ爪・ロープなどを用いて巧みに壁をよじ登っていった。
(フッ)
「…!」
吹き矢を受けて、声もなく倒れる警備員!
仲間の異変に気付いたもう1人の警備員は、ふりかえったところをけさがけに斬られ、目を向いて倒れる。
男たちは一つの部屋に侵入し、引き出しから「Top Secret」と書かれた書類の束をつかみ出した!
全く犯人の手がかりがつかめず、警察署長ロバートはいらだっていた。「あの書類があれば、人類を滅ぼすことだって可能なんだぞ!」ロバートは自分の机を拳でたたいた。机の上のレーガン大統領の写真が揺れた。
署員たちは苦渋に満ちた表情で会議のテーブルを囲んでいた。
「だれか、何か言うことはないのか!」
皆黙って顔を伏せていた。あの厳重な警備を抜けるとは、とても人間業とは思われなかったのだ。
重苦しい沈黙の末、ついに1人の刑事が手をあげた。
「いや、でもひょっとしたら…」
「何だね、ダニエル君」
ダニエルと呼ばれた若い刑事は答えた。
「…ひとつだけ、可能性があります」
「と、いうと?」
「ニンジャです」
「ニンジャ?」
唖然とする署長たちに、ダニエルは説明を始めた。曰く、…ニンジャは500年ほど昔の日本にいたファイターズである。過酷な修行によって肉体を極限まで鍛え抜き、不可能を可能にするおそるべき集団である云々と。
「で、そのニンジャとやらがどうしたんだね」
「私の友人に、日本のオキナワに行ったことがあるものがいます。彼を通じてなら、ニンジャとコンタクトがとれるはずです。ニンジャにはニンジャです。彼に頼んで、日本からコウガニンジャを呼び寄せてもらいましょう」
夜の町を歩く1人の若い女性がいた。忍び寄るいくつかの黒い影に、彼女は気付いていなかった。
ニンジャ軍団である!首領の合図で、一斉に襲い掛かるニンジャたち。
「んーっ!んーーっ!」
あっという間に女性は口を塞がれ、車に連れ込まれそうになった。と、どこから飛んできたのか?手裏剣が壁にカカカ、と刺さる!
「ダレダ!」
振り向いたニンジャに、白刃が一閃。もう一閃して、こんどは後ろの敵を切り倒す。
なんと、もう1人のニンジャがそこにいた!夜目にも鮮やかな紅のニンジャ装束。覆面の額には星条旗の縫い取り。
さらに、木の上の敵に手裏剣を浴びせ、これを落とす。
「ぐわーーっ!」
ようやくニンジャ軍団が態勢を立て直したと見るや、赤のニンジャは地面に何かを投げ付けた。
ドカン!
閃光とともに白煙があたりを包む。煙幕だ!
煙がはれた時、そこにはもう女性も謎のニンジャもいなかった。
黒いニンジャ装束の集団が整列し、土下座している。彼らの前に座っている袴の男はどうやらこの集団の首領らしい。首領の後ろの床の間には巨大な「忍」の文字の掛け軸。そう、ここはニンジャ軍団の本部である。
首領の正面にひとりのニンジャがひざまづき、何やら報告をしている。
「娘の誘拐に失敗しただと?」首領は怒気を含んだ声で言った。
「博士の娘を手に入れられなければ、あの研究を完成させることができないではないか!」
首領は脇差しを手に取ると、報告者に差し出し、冷たく言い放った。
「イガニンジャに失敗は許されぬ」
そのニンジャは脇差しを受け取ると、ためらうことなく引き抜き、自らの腹に突き立てた。
「ぐふっ…」
飛び散る鮮血!
その様子を平然と見守る首領に、1人の下忍が何やら耳打ちした。
「そうか…。コウガめ、やはり来おったか」
星条旗の覆面の下にあったのは、なんとダニエルの顔であった!ダニエルが、娘を無事に家に送り届けてくれたのだ。気がついた娘はアニーと名乗り、ダニエルに礼を言った。
「…私の父は、あの研究所の所長なの。よくはわからないけれど、『わしは人類の未来に関わるような研究をしているんだ』と言っていたわ」
娘は時計を見た。
「それにしてもパパ遅いわね。どうしたのかしら」
「僕はもう帰るよ」
ダニエルは帰ろうとした。
「待って!」
見つめあう二人。
(サービスシーン。中略)
ダニエルが帰った後、アニーは郵便受けの中に差出人不明の手紙を見つけた。
『お前の父親はあずかった。返してほしければ1人でウエストバレーにこい』
娘はハッとした表情になったが、やがて何かを決意して家を出ていった…。
椅子に縛り付けられた白衣の初老の男。博士だ。博士にイガニンジャ軍団の首領は話し掛ける。
「さあ、いいかげんに太陽エネルギーの秘密を話してはどうかね」
「だ、誰が貴様らなどに!」
「ほう、ではこれを見てもらおうか」
首領が指をならすと全面の壁が開き、柱に縛り付けられた娘が現れた。
「こ、これは…アニー!」
「う、うーん」
どうやら気を失っているらしい。
「アニー!アニー!」
再び閉じる壁。
「どうかね、考えてはくれまいか」
「…・」
博士の胸中の苦悩いかばかりか…。
次の日、娘の家を再び訪れたダニエルは、家の様子がおかしいのに気付いた。
「アニー!アニー!」
返事がない。ドアを押すとカギは開いている。「アニー!」
中に入ったダニエルは、落ちていた手紙を見てすべてを悟った。
アニーと博士が危ない!
だが、敵は恐るべきイガニンジャ軍団だ。こちらは1人…どうやって?
そのとき、オキナワのマスター・ウエシバの言葉が胸の中に蘇ってきた。…
『敵は己の中にこそあるのだ、ダニエル!』
ダニエルは自分のアパートにもどり、秘密の箱をあけた。光る箱の底に、ニンジャ装束や手裏剣やその他の忍具のひとそろえがあった。
「これもコウガの定めか…」
正座して身仕度を済ませたダニエルは、マスターの写真の前で足を組み、目を閉じて印を結んだ。
「ピョー」
「シャー」
「レツー」
「トー」…
やがて立ち上がったダニエルの目に迷いはなかった。
イガニンジャ軍団とダニエルの死闘は凄絶極まるものであった。満身創痍になりながら、ついにダニエルは一つの部屋に辿り着いた。と、突然薄暗かったはずのあたりが光に包まれた。
ハッとして振り向いたダニエルの前に、首領の姿があった。その後ろには気を失った博士とアニーの姿が!
「よくここまで来たな、ボーイ」
「やはりきさまだったか、…ヤマモト!マスターのかたき!」
ヤマモトはダニエルの兄弟子で、非常に優れた術を持つニンジャだった。が、マスター・ウエシバはヤマモトの腹黒さを見抜き、奥義をダニエルに与え、ヤマモトには与えなかった。ヤマモトはそれを恨みに思い、病気のマスターを殺したのだ。
「なにが望みだ?」
「公共の安全のため、そして、復讐のためだ。…博士とアニーを返せ」
「復讐だと!お前がか!!」
首領は懐に手を入れた。身構えるダニエル。・・
「心配はいらん」
首領は懐から取り出した拳銃を床に落とした。と、爆発がおこり、あたりは白煙に包まれた。
「ワッハッハッハッハッハッ、ワッハッハッハッハッハッ!」
首領の笑いがあたりにこだまする。煙が晴れた時、そこにはもはや首領も博士もアニーもいなかった。
「くっ・・」
歯がみするダニエルを、どこからか飛んできた手裏剣が襲った。
カカカカ!
ダニエルは紙一重でよけた。
つづいて空中から襲い掛かるニンジャたち。
あやうく突き出される青龍刀を払い除け、3対1の乱戦となった。激しく切り結ぶ四人。敵の3人は、ダニエルが手強いと見たか、体を組み合わせて不思議な隊形をとり、印を結んだ。
ダニエルは切り掛かると見せて、刀のさやの隠しボタンを押した。
と、さやからどこに隠してあったか何本もの矢が飛び出し、3人の敵の額を貫いた。
3人は声もたてず、ゆっくりと倒れた。
ボボン!火薬が炸裂する音がして、あたりは白煙に包まれた。
煙が晴れた時、3人の死体はすでになく、なんと白いニンジャ装束に身を包んだ2人の男が現れた。
さすがのダニエルも驚きをかくせない。
二人は網のようなものをダニエルに向かって投げ付けた。網にかかって身動きとれなくなるダニエル。
白ニンジャの刀がダニエルを貫いた!
だが、ダニエルだと思われたものは、もう1人の仲間であった。あまりのことに呆然となる白ニンジャの両足首を、ダニエルのニンジャトウがたちまち切断する。支えを失い地面に落ちる白ニンジャ。だが、地面につく寸前、ダニエルの次の一撃で白ニンジャの体は首と胴体の二つにわけられてしまった。地面にバラバラと白ニンジャのからだが散らばった。
ボボン!また火薬が炸裂し、あたりは白煙に包まれた。
煙が晴れ、今度はまた黒いニンジャ装束に身を包んだ男が現れた。黒い覆面に銀色のスリー・ダイヤモンドの紋章。イガニンジャ軍団の首領である。
首領は鎖分銅をぐるぐると回しながら、ダニエルとの間合いをはかっていた。ダニエルも、なんとか首領の懐に飛び込もうと狙っていた。
しばらくの間両者はにらみ合っていたが、ついに首領が動いた。鎖分銅をダニエルに向けて飛ばしたのである。ダニエルのニンジャトウは鎖にからめられ、両者は武器をなんとか自分に引き寄せようと鎖を引き合った。
ダニエルと首領はついに額を突き合わせるばかりの距離に近付いた。
首領の口からなにか光るものがダニエルの目に向かって飛んだ。
「!」
ダニエルは思わず刀をはなして顔を覆った。含み針だ!首領はダニエルの刀を遠くへ投げ捨てると、自分も刀を抜き、ダニエルに向かって突き出した。ダニエルは反射的によけた。が、首領の蹴りによって地面に倒れた。
首領はダニエルを突き殺そうと刀で執拗に狙うが、ダニエルは地面を転がって逃れる。
ダニエルが突然動きを変え、首領に反対に飛びかかった。首領を巴投げで投げ飛ばし、二人はもつれあってゴロゴロと転がった。今度は首領の刀の奪い合いとなる。
二人はしばらく刀を間に挟んで動かなかったが、突然首領は刀の柄から隠し小刀を引き抜き、ダニエルの腹に突き立てた。
「!!」
小刀を腹に刺したまま、ダニエルは後ろに飛びすさった。首領は「よし!」という表情で刀を持ち直し、ダニエルに襲いかかった。倒れた木に足を取られ、転倒するダニエル。
絶体絶命のその刹那、ダニエルの目から緑色の光線が放たれ、首領の目を眩ませた!
「!」
目を押さえてもがく首領。ダニエルは自分の腹の小刀を引き抜き、苦しむ首領のところに駆け寄った。そして、相手の腹に反対にそれを突き立てた。
崩れ落ちる首領に向かって、ダニエルはなにやら印を結び、指を突き出した。
ズズ…ン!
激しい爆発音とともに首領の体は粉々に四散した。
戦いは終わった…。
ダニエルは自分の腹から鉄の板を取り出し、投げ捨てた。その板には小刀が刺さった跡があった。
夕日の中、ダニエルはどこかへ去っていった。
(終わり)
小説というより、映画のあらすじ紹介みたいになってしまいました。まあ、この小説の目的は「典型的なニンジャ映画を作ったらそれはどんな話か」を示すことにありましたので、仕方がありませんでした。
博士と娘はどうなったんだ、とか、警察の仕事はどうなったんだ、とか、目からビームには説明はないのか、とか、いろいろ疑問は尽きないとは思いますが、そんなことを気にしていてはニンジャ映画は見られません。この程度辻褄があっていることさえ、ニンジャ映画においては稀有なことなのです。そのことを分かっていただけると幸いです。
なお、最後の戦いはほとんど「クラッシュofザ忍者」のパクリです。